「あの・・・つ・付き合ってください!!」
勇気を振り絞って己の胸のうちを告げる少女
顔を赤らめて、うつむき加減の姿勢から見上げてくる潤んだ瞳
やるなお前!男の何たるかを分かってらっしゃる!!
「ごめん、君のことが嫌いなわけじゃないけど、ごめんね」
そんな彼女に死神の宣告よろしく告げちゃってる悪魔。
死ね!今すぐコンクリートに顔埋めて土下座の姿勢で昇天してしまえ!!
「っ!・・・・」
傷ついた少女は声にならない悲鳴と共に走り去っていく・・・その後姿もグッジョブ!!
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「かっわいそー」
一連の出来事を物陰に隠れることも無く堂々と見物していた俺は、とりあえずそんな風に声を掛けながら
軒の人物に近づいていった
「はぁ」
「相変わらず、女泣かせだねー」
あんなはっきりしない態度じゃわだかまりも残るだろーに、
この男は毎回こうやって中途半端な返答を繰り返している
中学の時なんて「今は付き合う気はない」何て答えるから、同じ娘に何度も告白されているっていうのに
「じゃあどうやって断ればいいんだよ!!」
断ること前提ですか、全国のモテない男子を敵に回したぞ、主に俺とか
「付き合ってみりゃーいいじゃん」
「簡単に言うけどほとんど話したこともない相手に・・・」
「今すぐ結婚しろってーわけじゃねーんだからさ」
「でも・・そんな軽い気持ちで・・・」
この手のやり取りも何度も繰り返している。
彼としては「どんな理由があったとしても女の子は泣かせてはダメ」ということらしいが、
誰かと付き合う気も無いらしい。
ぶっちゃけそんな理由で希望を持たせ続ける方が酷だろう
まあ、こいつもそこは感じているらしく毎回こうやって悩んでいるんだが
彼のうらやまし、もとい切実な悩みを話の種に会話を膨らませていく。
放課後の帰り道は大体こいつの恋愛話を聞いてる気がするな
まあでも、いつも俺が言うことは決まっている
「勝手にしなさい」
だ。
「はあ、こういうことにはとことん冷たいよね」
「俺なりの愛情だよ」
悩んで出した答えであればそれでOK。それが俺の考え
選択肢のどれを選ぶか悩むのが大事なんであって、その先も選択肢自体もどーでもいい
こいつは必死こいて考えて選んでいるんだからおれがとやかく言うことは無い、と思う
つーかなんでそんなモテ話に真剣に答えなきゃいけないの?喧嘩売ってんのか?
いくらですか?買っていいですか?
「今ので何人目だ?」
「んー、5人目?」
くそ、星になるまで飛んでいってしまえ!
こいつは昔からモテていた。身長170半ばのその体は幼いころから剣道を習ってるおかげで
実用的な筋肉に包まれている。
そして、そのうえに乗っかったこいつの顔はやたらと整っている、やたらと。
定規を顔にあてたくなるぐらいにバランスのとれた配置の各パーツ。何でも祖父が超美形外人だったとか。
少し赤みがかったブラウンの髪に同じく茶色っぽい瞳。ぶっちゃけどこのアイドル?って感じだ
高校に入学して2ヶ月という短期間で既に5人に告白されるというハイスペックぶり。
もうヤっちゃってもいいですか?いいですよね?
実際、こいつが俺の親友でなければ埋めてるところだ。
いったいこれまでに何人の女の子を泣かせてきたか、まあ、こいつの前では優柔不断と書いても
『やさしい』と変換されるのだが・・・
それだけではない。こいつの前では
敵 →『とも』
ピンチ→『ちゃんす』
苦 手→『かわいいやつ☆』
と、あらゆる負が『正』へと変換される。
こいつが関わったトラブルはなぜか気持ち悪いほど気持ちよく解決される
もともと、根っからの勇者様体質なのだ。トラブルに巻き込まれては円満に解決していく。
まあ、だいたい俺だけは被害を受けるが・・・
そのうち地面から剣でも抜いてくるんじゃないかと心配になる。
「そういうけど、そっちはどーなの?」
「ん?」
「告白。されたら誰とでも付き合うの?」
何をおっしゃいますかあなた様は。そんなの
「知らんがな」
こちとらお前と一緒にいるおかげで周りからは「あの一緒にいる人」呼ばわりされてんだ。
お前のお人よし気質のせいで舞い込むトラブルを処理ばっかしてるせいで変なうわさは流れるし。
曰く、「腰巾着」
曰く、「雑用係」
こいつの女関係に関わる様々な厄介ごとを背負わされるうちに女達にはそんな風に思われているらしい
曰く、「悪魔」
曰く、「魔王」
妬んだ男共の相手をしているうちにそんな恥ずかしい二つ名を頂いた
女が集まれば色んなごたごたが
そんな女には一緒にいるからといいように扱われ
男がそれを見てまたごたごたが
そんな男共に一緒にいるからと因縁をつけられ
そんな立ち位置の俺が告白なんてそんな青い春真っ盛りなイベント訪れたことあるはずない
「告白もされたことない奴にそんなこと聞くなよ」
「・・・・」
いや、そこで黙られても。すげぇ哀しい気分になってきた
そんないつものやり取りと、ゲージ3本目が溜まりそうな殺意を抱きながらの帰り道
いつもと変わらない他愛も無い日常の一幕
しかし、それは突然やってきた
・・ペキ
世界が ・・ミシ
パキ・・・
割れた
バキ
比喩表現でもなんでもなく、卵の殻が割れるみたいに目の前の風景にいきなりひびが入ったかと思うと
目の前で音もなく風景が飛び散ったのだ
「な・・」
「なに?これ・・・」
「知るか!走るぞ!!」
頭の中で警鐘が鳴り響く、ヤバイ!逃げろ!俺の勘がそう告げている
こちとらこいつのおかげで色んな修羅場くぐってきたんだ、こういう時の勘だけはっ、ていうか
誰がどう見てもヤバイだろこれ!こんな現象見たことある人がいたらその人がどうなったか知りたい!
軽くパニクリながらもとにかくその場から離れようとひび割れと反対方向に走り出す・・が
「こっちも!?」
「囲まれ・・てる」
気づいた時にはすでに周りは割れ目だらけ、そしてなんだか割れ目が大きくなっているような・・・
「こりゃあ、お手上げってやつかな」
「どうなるの?俺達」
「どーもならないってことは無いだろうな」
「そんな!!なんでそっ」
ぱりーん
周囲のヒビが突然すべて砕け散る。安っぽい表現がぴったりな音を立てて世界はあっさり崩れ去った
うすれる景色の中、なんとなく昨日やってたゲームを思い出した
(最期かもしれない時に思い出すことがゲームって・・・)
そんなどーしょうも無いことが、この世界での俺の最後の思考だった