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第二話  目覚め




けろ・・

『・・ん』

開けろ・・・

『ん・・う?』

目を開けろ!!


「うっせーな!なんだよ!?・・・・って、あれ?」
んー、俺の部屋じゃないような・・・つーか違うな絶対
目の前には見渡す限りの平原が広がっていた。俺の記憶が正しければ 俺の部屋からは地平線なんて見えなかったはずだ。
というか普通見えない

「どこだ?ここ・・」
「お前の頭の中だ」
誰もいないと思っていたところで不意を突かれ、うわっ!とベタな驚き方をして振り返ると、 そこには中学生ぐらいの少女が立っていた。

「あんた誰・・いや、何だ?」
直感だが、こいつからは得体の知れない何かを感じる
少し重心を落としながら注意深く観察してみるが、てか、めちゃくちゃ可愛いな

漆黒の髪は腰まで届くほど長く、漆黒の瞳は見ていると吸い込まれそうな錯覚に陥るほどに深い
反対に肌の色は白く、まるでそれ自体が輝いているように見える
身を包んでいるのは瞳の色と同じ簡素な漆黒のワンピース、そしてまだ幼さの残る可愛らしい顔
なんというか、美少女という言葉がぴったりな少女だ

「何をボーっとしているんだ?」
しばらく彼女に見とれていた俺に向かって目を細め問いかけてくる
いかんいかん、これでは変態みたいではないか

「何だ?という質問だったな、その質問の前にまずは状況を説明しておこうか」
そう言って彼女は説明しだした。何とも現実離れした状況を・・・
内容はこうだ。

今いる場所は俺の頭の中、精神世界というようなものらしい。現実の俺はベッドの中にいるとか
そしてその体がある世界は俺が住んでいた世界とは別の世界にあるらしい。
なんでも勇者を召還して魔王を倒すためにこの世界の人間が呼んだんだとか、物語ではよくある展開だが、現実ではまず無い展開だな。
そんでもって彼女は闇の精霊らしい、精霊というと物語の中盤ぐらいに出てきて主人公の力になるのが定番だと思っていたのだが・・・
そんで眠っている俺の夢に干渉してこうやって俺に説明している。とそういう話らしい。
その後は自分の持っている力やらその使い方やらなんやら、小難しい話が続いた。
なんなんだろ、この中二病的な展開は?

「それで?あんたは俺に何を求めてるんだ?」
「別に何も」
「俺がその話を信用すると思ってるのか?自分の夢の住人の話を?用も無いのに説明してると?」
「信用するかは勝手。ただ、起きた後に役に立つと思うから説明しておいた。あと、私はあなたの夢の産物ではなく ちゃんと世界に存在している。」
「分かったよ。了解。」
質問してもあまり意味は無いらしい。というか分からないと話が進まない気がする。ここはとりあえず信用することにして話を進めよう

「それじゃあこちらからも質問」
「なんだ?」
「あなたの名前はを教えて」
「頭の中に居るんだから自分で調べられるんじゃないのか?」
現在こいつは俺の頭に直接干渉してきている。そして俺のことであればなんでも筒抜けらしい
さっきの説明の時にも信用しない俺に対して俺しか知らないことを話してきたし

「ダメ、あなたの口から聞かせて」
口からって、現実の俺寝てるんだけど。なんてひねくれた回答をしようとして思い直す。
言っても話をややこしくするだけか
「如月 冬児(きさらぎ とうじ)」
「トージ・・・分かった。じゃあ、もう起きていいよ」
「え、おい、ちょっと」
意識が浮上する感覚。なんつー身勝手な精霊だ、こいつわ!


________________________________________


「待てよ!!」
「っ!!?ごめんなさい!?」
勢いよく自分に掛かっていた布団を蹴飛ばしながら起きると、そこはどこかの洋室のようだった。
あいつが言っていたことは・・・本当なのか?でも、まさかな・・でも
「あの・・」
どうやら俺の部屋ではないみたいだし、この横から話しかけてくるどう見ても異国風の女性はなんだ?
いや、ただのコスプレ好きの方かも知れん。そして親切なコスプレイヤーは倒れていた俺を家まで運んでくれたとさ。

「大丈夫ですか?体の具合でも・・まさか、召還の後遺症でも!?いやでも、そんな事例どの文献にも無かったし・・」
今日はどうやら耳の調子が悪いらしいな、何も聞こえない。そう、俺は何もキイテナイ、キコエナイ

そんな調子で現実逃避していると、ドアの奥から足音が聞こえてきた
なんつーか、付き合い長いと足音で誰か分かっちゃうんだよなー

「とーじ!!大丈夫kボファっ?・・・何すんだよ!いきなり!!」
「なんとなくだ」
この一連の騒動の一端はこいつのせいな気がする。八つ当たりと言ってくれて結構だ
とりあえずこの遣る瀬無い気持ちを晴らしたかった俺は、勢いよく扉を開けて入ってきた所に顔面目掛けて思いっきり枕を投げつけてやった

「それより聞いたか冬児!!俺はやるぞ!!」
まあなんとなく何がしたいのか事情は察するが・・・こいつは一足先に起きて状況を認識してしまったらしい
俺が夢の中で聞いたような話を、この正義感たっぷりの漢(バカ)も聞いたのだろう
そして、こいつも同じ話を聞いていたという時点で、さっき見た俺の夢も限りなく現実の出来事であった確立が高くなったわけだ・・・
もう、腹括るしかないか。

「じゃあ、とりあえず説明してくれ。俺達になにをさせたいのかを」
さっきから置いてけぼりを食らっている女性に、静かに語りかける。そう、覚悟を決めて・・・
女性は突然の俺の問いにも7動じず、一言、「はい」と答えると静かに語り始めた

まず、彼女の名前はエリス=クリューセルというらしい。そして、俺達をこの世界に呼び出した張本人なんだとか。
呼び出した理由は、この世界には凶暴な魔物が居るらしいのだが、最近その魔物たちの活動が活発化してきているらしい
具体的には、今まで現れなかった人里まで来て被害をもたらしているらしい。そしてその原因は「魔王」の出現ではないかと考えられている
そんで・・以下略。さっき夢の中で聞いた話とほとんど同じだな。
まあ、ようは異世界物の物語の定番な出来事が俺達の身に起こってしまったのだ。泣きたくなってくる
しかしまあ、物語では無いことは今俺を包んでいる空気のリアルさが物語ってる。さっきの少女が言ってたことは一理あったわけだ。
いきなりこんな話されてたら、まず信じていなかったし、真実だと分かってもきっと冷静じゃいられなかっただろう。

「以上がこの世界を取り巻く現状です、が。二人も召還されるなんて前代未聞です。過去、こんな事例はありませんでした。」
まあそうだろうな。間違いなく俺は巻き込まれた。この横で真剣に話を聞いているアホが十中八九ほぼ間違いなく呼び出されるべき人間だ。
こいつなら人徳だけで世界を救えることだろう。俺はそんな力ないからな、集められる情報は集めないと

「質問がある」
そう切り出した俺に目の前の女性、エリスは待ったをかける

「その前に、こちらは名乗りましたが、まだお二人の名前を聞いていません」
そうだった、長々説明させといて自己紹介もまだだったな。まあエリスが聞きたいのは主に俺の隣に居る奴の名前みたいだけど・・・
さっきから話してる最中にちらちら顔を覗いてるみたいだし。
こんなとこでもいきなりフラグ立てるなんて、こいつのモテッぷりは世界の壁も超えるらしい

「俺は如月冬児だ。こっちの世界だとトージ=キサラギになるのかな?」
「僕は、二ノ宮 春。ハル=ニノミヤだね。僕にその力があるのなら、絶対にその魔王を許さない。きっと平和を取り戻して見せるよ」
そんな宣言と熱い決意。そして顔を赤らめてハルを見つめるエリス。なんか、すごい帰りたいんだけど。

「自己紹介もしたし、質問いいか?」
このままだと話が進まないと思い咳払いをしつつ問いかける。彼女は自分がハルに見とれていたことに気づき、我に返ると静かにうなづいた

「じゃあ一つ目。俺達は平和な世界の、その中でも平和な国から来たどこにでも居る学生だ。そんな奴が世界を敵に回すような奴を倒せるのか?」
当然の疑問。俺達の住んでた世界じゃ争いなんてほとんど無い。犯罪者がニュースで報道されてもどこか遠い世界の話のように聞いていた。

「それは大丈夫です。勇者召還の儀は光の精霊を内に宿した人物を呼び出すものであり、なんでもない一般人を呼び出すものではありません」
光の精霊、ということは完全に俺が勇者である可能性は無くなった訳だ。まあ確認するまでも無いけど、やっぱり巻き込まれただけか・・・
「そして、精霊の加護を受けている人物はそれに属する力を手に入れます。なので、現時点でもその辺の人間よりよっぽど強いですよ。 あとは経験を積めば十分魔王と戦えるレベルになります」
と文献には書いてあります。そう締めくくり満足そうに微笑んでくるエリス。何か問題でも?とでも言いたそうな顔だ
ようは本で読んだだけのことしか知らないわけだ。まあぶっちゃけこれに関してはさっき夢の中でも説明されたから確認みたいなもんだ。
経験とやらは、俺達を使いたい奴らが居るんだから問題ない。訓練でも何でもさせる気なんだろう。確かな足場は確保されているわけだ

「二つ目。これが一番重要だ。俺達は元の世界に帰れるのか?」
この質問の答えによって俺の行動指針は変わってくる。帰れるのであれば即行で魔王とやらを退治してしまうだけだ。そうでないなら・・

「申し訳ありませんが私にはその力はありません。私が使えるのは呼び出す魔法。あなた達の住んでいた世界にも同じ術者が居れば問題ないのですが・・すみません」
本当に申し訳なさそうに謝ってくる彼女。あなたのせいじゃないと慰めるハル。馬鹿かこいつは、俺達がこの世界に居るのは彼女の責だ。
それはなにがあってもどんな理由があったとしても変わらないっていうのに。
まあそんな精神論は今はどうでもいいか。とりあえず帰る方法だ

「しかし、どんな文献にもその後の勇者の活躍は載っていません。魔王を倒せる程の人間がその後何の記録も無いのはおかしいのです」
つまり、帰ったからその後は語られていないのでは?という考えらしい。まあその可能性もゼロでは無いだろうけど、根拠の無い可能性を信じるのはいささか無謀と言える
まあ彼女なりのフォローなんだろうけど。

「じゃあ最期にもう一つ。魔王の出現と言っていたが、突然現れたのか?それとも悪意を持ったこの世界の人間の仕業なのか?」
ここまでの話は予想の範囲内。だから実はこれが一番重要な質問だったりする。

「魔王は魔界の住人。この世界とは別次元にある魔界に住むといわれる魔人、その中でも力を持った者の侵略。そう伝えられています」
思っていた通りだ。この手の話に魔界は付き物。であればそこから来る魔人とやらには世界を移動する技術があるわけだ。
ゲームの知識もたまには役に立つな。

「おーけーありがとう。分かったよ」
「いえ、こんなことに巻き込んでしまったことは本当に申し訳なく思っています。すみませんでした。」
「エリスさんが謝ることじゃないよ。全部魔王が原因なんだから」
「はい、ありがとうございます・・・では今日は遅いのでもうお休みください。部屋は自由に使っていただいて結構です。また明日聞きたいことがあれば説明しますので」
そういって一礼すると静かに部屋を出て行った。それに続いて馬鹿も部屋を出て行く。廊下ではなにやらまだハルが熱く語っている声が聞こえるが、それも聞こえなくなると 静かにベッドに横になる。
(とんでもない事態になったな・・)
これからの自分の身の振り方をどうするか、さすがに疲れたのかまどろむ意識の中、そんなことを考えながら異世界一日目の夜は更けて行った。






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