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第三話  暗中




目を開けるとそこは昨日見た平原の真ん中だった。目の前には同じく昨日見た漆黒の少女

「なんだよ、人の安眠を邪魔しやがって」
「あの状態でよく眠れるね」
そーか?普通だろ?あんな非現実な現実突きつけられたら誰だって疲れて眠くなる。
それが夢の中まで非現実な世界だなんて・・・

「はあ、それで?なんか用か?」
「・・・」
「黙ってても分かんないぞ?言ってみろって」
呼び出しといて用は無いなんていう分けないだろうが、黙られると困ってしまう。
何とか話を進めようと話しかけるがだんまりを決め込む少女。これじゃあ俺がいじめてるみたいだ
なんか用事があったんじゃないのか?
このままでは俺の貴重な睡眠時間が削られていく。勘弁して欲しいんだが

「3人」
「へ?」
「あなたを監視している人数」
どうやら何かしらの力を使って調べていたらしい。護衛じゃなくて監視。建前としては国の重要人物であるはずの俺達の護衛なんだろうが。 本当のところは逃げ出さないためか、もしくは他の理由。思い当たるとすれば・・・

「二人というイレギュラーへの対応・・・か」
さっきエリスから聞いた話ではどうやら今までに二人同時に召還された例は無いらしい。
当然だろう。俺はたまたま巻き込まれただけで、本来ならハル一人でこちらに来るはずだったんだ。
それがどういうわけか俺まで巻き込まれてしまった。本来あるわけの無いイレギュラー、それが俺。
とりあえずの処置としての監視、必要なのは勇者であって一人だけ。しかも俺は闇の精霊憑きだ。
闇といえばあまり良い印象は無いだろう。イメージだが、それは光を生み出す文明があるのなら共通のはずだ。
であれば、あまり目立った行動は取らない方が身のためだな・・・

「大丈夫。私が力を貸すから」
「力?闇の力なんて使ったら危なくないか?」
「バレなければ良い」
つい今しがた目立ったことはしないと決めていたところだったのに、出鼻を挫かれた気分だ。
そりゃまあ言う通りかもしれんが。まあ、使いどころを見極めれられれば大丈夫か。なんか犯罪を犯す前の自分へのいいわけみたいな理屈だが、 生身の高校生じゃ出来ることなんて限られてるしな

「じゃあ頼むよ。えーと、名前、まだ聞いてないよな?なんて呼べば良い?」
「名前は無い。精霊は精霊であって固有の名は持っていない」
うーん、これから長い付き合いになるだろうし、呼び名が無いのも不便だな。ここは一つ俺のカリスマ性溢れるセンスで 命名してやるか

「うーんと、そーだな。じゃあ今日からお前はスノウだ」
「スノウ?」
「ああ冬が従えるのは雪。だからスノウ。分かりやすいだろ?」
我ながらセンス溢れる名前だ。うん。

「・・・・」
あれ?気に入らなかったか?まあ俺なんかに従うんじゃしょうがない気もするが。
「俺が帰るまでの間だけだ、我慢してくれ。呼び名が無いんじゃ不便だろ?」
それでもうつむいて頭をフリフリするだけのスノウ。その仕草は可愛いんだが、俺には子供をあやすスキルなんて無いからな、 困ってしまうんだが。

「嫌ならいいんだが・・・」
「嫌じゃありません」
その割にはなんかムスッとしている気がするが、もともと表情の変化が無いから見た目じゃ判断しにくい
まあ嫌いじゃないんならOKということだろう。ということでスノウに決定だ

「もうすぐ朝」
「なに?もうか!?」
なんてこった。結局寝れなかった・・・まあ、ここが夢の中ってことなんだから実際には寝ているわけなんだが。
それでもこれじゃあ全然眠った気がしない。俺は今が成長期だっていうのに

「そろそろ起きたほうが良い」
「分かったよ、またなスノウ」
「・・・うん」



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朝起きた俺がまずしたことは、(もう一回寝ようかめちゃくちゃ悩んだが)情報収集だった。情報は武器である。
こと、この世界については完全に無知である俺達はあらゆる面で絶対的に不利である。今のままでは簡単に騙され、 いいように扱われるのは目に見えている。
そうして俺は情報を集めるべく部屋を出ることにした。

どうやらここは城の中であるらしく、部屋を出ると立派な石造りの廊下が広がっていた。窓から外を見ただけでも敷地はかなりの広さがあるようで、 この中で人一人始末することなんて簡単なように思える。
そう、最悪のシナリオも想定しておいたほうが良いだろう。不要な人物の抹殺。勇者は一人で良い。なんて、ありがちなシナリオだ。
しかし、部屋の周りには人は居ないようで、遠くから時折話し声や訓練中の兵士の掛け声らしきものが聞こえてくるだけだった。
正直部屋からすんなり出られるとは思っていなかったが、部屋の前には見張りの一人もおらず、なんだか拍子抜けした気分だ。

「自由にさせて様子でも見る気なのかねえ」
まあその方がこちらとしては都合が良い。そう思い直し城内を探索する。
しかしまあ、部屋に用意されてたものに着替えたんだが、着慣れないせいかなんか変な感じだ。
今の俺の格好は、黒の少しゆったりしたジーンズっぽい生地のパンツに同じく黒の革靴。そして薄いグレーのシャツを着ている。
見た目は全然普通なんだが、一々素材が高級そうなせいでなんか落ち着かない気分になる。
そんなことを気にしていても仕方が無いので、気持ちを切り替え情報収集を開始する。

結局、その後しばらく城内を探索したが好奇の視線を向けられることはあっても誰にも咎められることは無かった。

(なんか、気持ち悪いな)
城内を探索した成果はあった。しかし、こうもすんなりことが運ぶと少し気味が悪い。スノウの言っていた見張りとやらの気配もまったく感じないし。 まあ気配を感じさせたら監視者失格なんだろうけど。
しかし、そのおかげでいろいろと有用な情報も得ることができたし、図書室もあったのでいくつか本も借りてきた。 あとは部屋に戻って勉強の時間にするか。

部屋に入り扉を閉める。まずは今日得た情報をまとめることにした。
まず、この国はほとんど他の国との交流が無いらしい。地図上では北西に位置しているこの国は、北から東にかけて険しい山脈が、 南は堅牢な城壁とかなり深い森が覆っている。 唯一西にある海岸では船も出ているらしいが、海の魔物は凶暴とかで特殊な大型船しか出入りできないらしい。国土はかなり広いがこれといった特産物も無く、攻め入るには少し魅力の無い国と言える。 そのおかげと言っては何だが治安は比較的良いらしい。
そして今の現状だが、平和ボケした国には勇者召還なんてのはかなりの大イベントらしく、ハルは色んな所に引っ張りまわされているらしい。
どうりであいつの姿を見ないと思ったが・・・俺は完全に仲間はずれなわけですか、まあ分からんでもないが。
いろんな意味で見栄えの良いハルは大いに国の役に立っていることだろう。いわば勇者こそがこの国の特産物なわけだ。
それも数百年単位でしか訪れない実りであれば、この機を逃してはならないと他国との交渉ごとやらなんやらに引っ張りだこなのも頷ける。

しかし残念ながら元の世界に戻る手掛かりは一切見つからなかった。やはり最初の計画で行くしかないみたいだな。
改めて決意を固めると、俺は机に本を広げて気合を入れる。本の名前はこちらの文字で書かれていて分からないが司書さんにはこう説明された。
「この世界の始めの人間達が、自分達の考えを多くの人に知ってもらうために考えたしるし。それを纏めた書物」
それを俺の住んでいた世界ではこう言う




「あいうえお帳」



と。








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